2508-000342-02 創立30周年記念誌_本文 デジタルカタログ
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35す。その点で共通する部分がありますね。加藤:確かに共通点があります。盆栽も、利益追求より文化の継承や哲学を大切にしています。ただ、現実には維持に大きなコストがかかりますから、伝統と経済性の両立は避けて通れません。髙子:ところで、盆栽の昔のイメージと今のイメージには変化があると聞きました。加藤:ええ、その点は大きいです。かつては「盆栽=高価で年配の愛好家が楽しむもの」という固定観念が強く、敷居の高い趣味とされてきました。しかし近年では、若い世代や女性、さらには海外の方々も興味を示すようになり、アートやライフスタイルの一部として受け入れられています。従来の“渋い趣味”というイメージから“おしゃれで洗練された文化”へと変わりつつあるのです。髙子:確かに、私も最近は若い方が盆栽を手にしている姿を見かけます。加藤:はい。伝統を守るだけではなく、現代的な魅せ方を工夫することで、裾野が広がっています。盆栽を「育て慈しむ対象」から「心を豊かにする暮らしのパートナー」へ――その変化が今、私たちに大きな可能性を与えてくれています。髙子:最近では、新しいアプローチも試みられていると伺いました。加藤:従来は「育ててこそ価値がある」という考え方が強すぎて、初心者が入りにくい世界でした。私はそこで、まず鑑賞を入口にする提案をしました。たとえば飲食店や個人宅に盆栽を貸し出し、定期的に入れ替える「ディスプレイ方式」です。これなら気軽に盆栽を楽しめる。やがて育てる側に回る方も出てきますし、鑑賞だけで満足される方もいます。それでも盆栽文化に触れるきっかけになるのです。髙子:まさに現代的な“サブスク型”のアプローチですね。加藤:そう言えるかもしれません。盆栽を所有するのではなく、出会いを楽しむ。そして鑑賞を通じて心を豊かにする。それが新しい入口になると思います。髙子:海外の反応はいかがでしょうか。加藤:非常に興味深い違いがあります。日本では「自然に寄り添う美」を重視しますが、ヨーロッパでは一神教文化の影響で「人間の表現」を強く求める傾向があります。背景が異なるからこそ、同じ盆栽を見ても評価が分かれる。しかし、それが対話のきっかけになり、国際的な文化交流に繋がっています。髙子:盆栽が単なる趣味を超え、国際的な文化論に発展しているのですね。加藤:その通りです。宗教観や文化的背景によって見方が変わりますが、それでも共通して人々を惹きつける。それが盆栽の力だと思います。髙子:この地域に住む人たちが、大宮盆栽を誇りに思えるようにするには、どのような取り組みが必要でしょうか。加藤:まず、世界的に見ても盆栽ほど熱を持って評価されている文化は稀です。それを地域資源としてしっかり生かすことです。ただ、盆栽園の数も減り、スペース的な限界もある。だからこそ、美術館や共通の販売・保管施設を整備して、情報発信や輸出検査などを共同で進めていく必要があります。髙子:青年会議所としても、何かお手伝いできるのではないかと感じています。加藤:ありがたいことです。各園だけでは日々の管理で手いっぱいになりがちです。外部の知恵や協力があってこそ、盆栽文化を守り続けられます。美術館と地域の園が互いに補完し合い、国際的にも通用する体制を築くことが今後の課題ですね。髙子:例えば青年会議所が行っている茶道部会のように、若い世代や地域の人が気軽に触れられる場があるとよいのかもしれません。加藤:その通りです。堅苦しくなく「まずは触れてみる」ことが大切です。盆栽も同じで、楽しく触れる機会があれば裾野は広がります。世代交代も進み、若い園主も増えています。今後は外部と協力しながら、新しい形で伝統を次世代に継いでいきたいと思います。髙子:100周年を迎えた今、次の100年に向けた課題と展望をどう考えますか。加藤:まさに今が岐路です。これまで世界大会などを通じて国際的な存在感を示してきましたが、持続可能性の課題は残っています。次の100年に向けては、地域の誇りとしての大宮盆栽を再認識し、国内外の人々と対話を続けながら文化を継承していくことが使命です。加藤 崇寿 様(Kato Takatoshi) プロフィール江戸時代から続く盆栽園・蔓青園5代目園主。大宮盆栽協同組合理事長。日本盆栽協同組合副理事長。一般社団法人日本盆栽協会理事。日本水石協会理事。日本水石協同組合理事。盆栽を所有するのではなく、出会いを楽しむ。それが新しい入口になると思います。宗教観や文化的背景によって見方が変わりますが、それでも共通して人々を惹きつける。それが盆栽。

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